🐟 業界の裏側
梅雨の魚は本当に味が落ちるのか—— 仕入れ視点で読む初夏の名古屋
「梅雨に入ると魚はまずくなる」——そう思って初夏の魚料理を避ける人は少なくない。だが現場の感覚はむしろ逆だ。2026年5月時点では梅雨入りを控え、業界人は仕入れの“当たり月”として身構えている。落ちるのか、上がるのか。仕入れの裏側から解像度を上げてみる。
結論から言えば、梅雨に魚の味が一律に落ちることはない。落ちるのは「鮮度管理の難易度」であって、「魚そのものの旬」ではない。むしろ初夏から梅雨にかけて旬の頂点を迎える魚は多い。
代表が鱧だ。関西では初夏の主役で、業界では昔から「梅雨の水を飲んで旨くなる」と言う。雨で河川から海へ栄養が流れ込み、プランクトンが増え、餌の小魚やエビが豊富になる——だから梅雨どきの鱧は身が太る。同じ理屈で、産卵前のこの時期に脂が一年で最ものる「入梅いわし」も、関東の銚子などでは6〜7月が勝負どきとされる。2026年の入梅はおおむね6月10日前後、つまり今が仕込みの助走期間にあたる。
では何が「落ちる」のか。ひとつは鮮度の歩留まりだ。高温多湿になると、店に届いてからの劣化が一気に早まる。氷の打ち方、冷蔵庫の開け閉め、仕込みの順番——平常月なら誤魔化せる雑さが、梅雨は露骨に味へ出る。もうひとつは水温。表層の水温が上がると身質が変わる魚があり、脂の質や食感がぶれる。
だから客が見るべきは「店がどう仕入れているか」だ。市場のセリ任せで日替わりに頼る店は、梅雨は当たり外れが大きくなる。一方、特定の漁港や仲卸とルートを持つ店は、産地と魚種を選んで振れ幅を抑える。価格にも表れる。梅雨どきの鱧の落としは一皿1,800〜2,800円前後、入梅いわしの刺身やなめろうなら700〜1,200円も珍しくなく、相場より極端に安い「梅雨の魚」はむしろ仕入れの妥協を疑ったほうがいい。直近では栄や名駅で新店の開業が相次いでいるが、初夏に魚で勝負する新店ほど、開けてすぐの仕入れ設計に本気度が出る。
見極めは単純だ。「今日のおすすめは?」と聞いたとき、魚種名と産地まで具体的に返ってくるか。鱧・穴子・イサキ・アジといった初夏の名前が、理由つきで出てくる店は、梅雨を旬として使いこなしている。「梅雨だから魚はちょっと…」と濁す店は、裏で鮮度に自信がないサインかもしれない。季節を言い訳にする店より、季節を看板にする店を選びたい。
Inside Perspective — 業界人の目利き
- 梅雨は『旬が落ちる』のではなく『鮮度管理の難易度が上がる』季節。鱧・入梅いわしのように梅雨こそ旬の頂点を迎える魚はむしろ多い。
- 味のブレを抑えられるかは仕入れルート次第。市場のセリ依存の店は当たり外れが大きく、漁港・仲卸と直のルートを持つ店は産地と魚種を選んで安定させる。
- 客の見極めは『今日のおすすめ』を聞くこと。魚種名と産地を理由つきで返せる店は、梅雨を旬として使いこなしている。