業界の裏側

栄のカウンター寿司で産地がバラバラな理由名古屋の魚は仲卸で決まる

2026年9月2日 (水) 業界の裏側 編集部

明石の真鯛、青森のイワシ、三重のアジ、クロムツ、平貝、赤貝。栄のカウンター鮨が公開した「本日のおすすめ」は、産地がきれいに揃っていない。これは仕入れが雑なのではなく、その日に買えたものをそのまま出している店の顔つきだ。水産のせり比率が17.1%まで下がった今、名古屋の魚料理の味は「どの仲卸と付き合っているか」でほぼ決まる。

栄のカウンター寿司で産地がバラバラな理由 — 名古屋の魚は仲卸で決まる
Photo: 店舗公式写真 / HotPepper

この記事はNAGOYA BITES — 名古屋の厳選1,100店超を業界視点で紹介するグルメガイドの一部です。

産地が揃わないのは、揃える必要がないから

栄のカウンター鮨が公開している「本日のおすすめ」を見ると、明石の真鯛、青森のイワシ、三重のアジ、そこにクロムツと平貝、赤貝が並ぶ。産地も魚種もバラバラだ。チェーンの海鮮業態なら、こういう並びにはならない。通年で同じネタを同じ値段で出すために、産地はむしろ固定される。

産地の散らばりそのものは、仕入れ先が市場なのか産地直送なのかまでは教えてくれない。だが「日ごとに入れ替わる」という一点は、その店が相場と在荷の動きに合わせて毎日買い付けを組み直していることを示す。仕入れの都合が、そのままメニューに出ている。

卸3社に対して、仲卸52社

名古屋市中央卸売市場本場(熱田区)は昭和24年開設、敷地17万2千平方メートル。ここに入っている水産の卸売業者は3社しかない。一方で水産の仲卸業者は52社ある(2024年4月1日時点)。この「3対52」という形が、名古屋の魚料理の個性をつくっている。

卸売業者は産地から荷を受けて市場に出す側で、飲食店が直接買う相手ではない。店が向き合うのは仲卸だ。そして今、取引の大半はせりではなく相対(あいたい)——卸と買い手が価格と数量を交渉して決める方式で動いている。農林水産省の資料によれば、せり・入札の割合は水産で17.1%まで下がった。8割以上が交渉ベースということだ。

交渉ベースということは、同じ市場から仕入れても、店ごとに来るものが違うということでもある。付き合いの長さ、支払いの確実さ、引き取る量、そして「この店ならこの魚を使い切る」という信用。それらの積み重ねで、いい荷が回る先が決まる。名古屋の魚の味を最初に分けているのは、板場ではなく、その前段にいる52社との関係だ。

市場型かルート型か、外から見分ける

読者にとって実用的なのは、予約する前にどちらのタイプかを読むことだ。判断材料は公開情報だけで足りる。

市場・仲卸型のサイン——おすすめの産地や魚種が日ごとに入れ替わる/当日予約の枠を残している/メニューに「本日の」が多い/カウンターが主体で席数が少ない。仕入れが読めない前提で組み立てられているから、席数を絞って当日の裁量を残している。

ルート仕入れ型のサイン——通年でメニューと価格が動かない/写真どおりの盛りが必ず出てくる/産地表記が固定されている/席数が多く回転を前提にしている。産地と数量を年間で押さえるから、価格が安定し、大人数でも同じものが出せる。

どちらが上ということではない。相場変動のリスクを店が引き受けるか、産地との契約で先に固定するか、その違いだけだ。裏を返すと、選ぶ側は「今日の旬を食べたいのか」「読める体験が欲しいのか」で行き先を変えればいい。

2026年の秋は、この差が客席まで届く

今年はその違いが例年より露骨に出る。サンマの来遊量は2026年の予測で42万トン前後、前年のおよそ4割で調査開始以来の最低水準とされている。2026年8月下旬の報道では、卸値は1キロ2,500〜2,800円と前年の2倍以上、築地場外の店頭では1匹1,400円という値がついた。魚全体でも、飲食料品の値上げは9月に4,531品目と約3年ぶりの規模になる。

この局面で市場・仲卸型の店は「今日は高いから使わない」という判断ができる。サンマを外して、その日に安く出ていた別の魚に振り替えればいい。原価は守られ、味はむしろ良くなる。逆にルート型は契約数量を引き受けている分、値上げか、量か質の調整かで受け止めることになる。秋にメニューが動かない店を見たら、それは怠慢ではなく契約の形だと読める。

価格帯とシーンの合わせ方

価格帯の読み方はシンプルだ。7,000〜10,000円のおまかせは、品目を組み替える自由があるから不漁の年でも満足度を保ちやすい。逆に3,000円台で飲み放題まで込みの海鮮業態は、組み替えの余地が構造的に小さい。今年の秋にこの価格帯を選ぶなら、旬の一点狙いではなく、通年で強いネタ(貝、〆もの、揚げ)に寄せて頼むほうが外れない。

シーン適性でいえば、カウンター10席前後の市場型は一人飲みと2名にはまる。その日の入りを見ながら握る店は、少人数のほうが裁量を活かせるからだ。接待で使うなら、品目が読めない日があることを前提に、日にちを決めた時点で一度電話を入れて当日の狙いを伝えておくといい。仲卸に発注をかけるのは前日から当日早朝なので、その連絡は十分に間に合う。

ちなみに本場は一般向けの見学も受け入れている。2026年9月26日には中学生以上を対象にした「大人のための市場見学」が予定されている(申込は8月25日で締切済み)。サケの見分け方の講座と食べ比べが組まれていて、店が毎朝やっていることの片鱗は覗ける。

魚の味を決めているのは、店の腕だけではない。その手前に52社がいる。

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Inside Perspective — 業界人の目利き

  • 産地と魚種が日ごとに入れ替わるのは市場・仲卸型のサイン。通年で固定されていればルート仕入れ型。どちらが上でもなく、相場変動のリスクを店が持つか産地契約で先に固定するかの違い
  • 名古屋市中央卸売市場本場の水産は卸売3社に対し仲卸52社。せり比率は水産で17.1%まで低下し、大半が相対取引。誰と付き合っているかが、そのまま入る荷の質になる
  • サンマ卸値が前年の2倍・9月の値上げ4,531品目という今年の秋は、7,000〜10,000円帯のおまかせが品目を組み替えられる分だけ強い。3,000円台の海鮮業態は貝・〆もの・揚げに寄せて頼むと外れにくい
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寿司処 昴 栄店

和食・鮨 ★4.9

矢場町から徒歩6分、カウンター中心の鮨店。公式Instagramで「本日のおすすめ」の産地内訳を公開しており、明石・青森・三重と日ごとに入れ替わる。ランチ営業あり、夜は8,000円前後。当日予約も受け付けている。