業界の裏側
名駅の居酒屋、時給1,500円でも人が集まらない
宴会の予約を入れる前に見る3点
10月1日、愛知県の最低賃金が1,140円から1,195円へ上がる。55円増は過去2番目の上げ幅だ。この日を境に、名古屋の居酒屋がよく出す「時給1,500円」は最低賃金の1.26倍にすぎなくなる。それでも人は集まらない。業界人から見れば理由は時給ではなく、シフトの組み方にある。そしてその歪みは、宴会の席を押さえる客の側からも観測できる。
この記事はNAGOYA BITES — 名古屋の厳選1,100店超を業界視点で紹介するグルメガイドの一部です。
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居酒屋10選 →10月1日、「時給1,500円」の意味が変わる
愛知地方最低賃金審議会は8月21日、県内の最低賃金を55円引き上げて時給1,195円とする5日付の答申どおり決定することが適当だと結論づけた。適用は2026年10月1日、上げ率は約4.8%で、上げ幅は過去2番目になる。
飲食の求人票で長く「強い数字」とされてきたのが時給1,500円だった。最低賃金が1,000円だった頃、これは1.5倍の提示だ。ところが10月からは1.26倍にしかならない。さらに、飲食店アルバイトの全国平均時給はすでに1,260円まで来ている。同じ1,500円でも、相場に対する上乗せは19%まで縮んでいる。数字は据え置きでも、意味は毎年目減りしている。
辞める理由の1位は、時給ではない
サービス業のアルバイト経験者505名への調査(2024年8月)では、半年未満で辞めた理由の1位は「職場の人間関係や雰囲気」で35%、2位が「仕事内容」で19%だった。待遇はここでは1位に来ない。そして入社2週間を超えたあたりから、労働時間や休暇の取りにくさを理由にする離職が増えていく。
業界の側から翻訳すると、この「雰囲気」の正体はだいたいシフトの組み方である。人件費を削る一番かんたんな方法は、忙しい時間だけ人を置くことだ。19時から21時に厚く、その前後は薄く。すると新人は必ず一番忙しい2時間だけに入れられる。教える側にも余裕がないから、誰にも聞けないまま2時間が終わる。新人から見ればそれは「雰囲気が悪い店」として記憶され、統計では人間関係の欄に集計される。時給を100円上げても、この配置が同じなら結果は変わらない。
時給を上げた店ほど、人件費率が下がることがある
ある試算がわかりやすい。月商300万円・総労働時間1,000時間・平均時給1,150円の店は人件費率38%。ここで作業を標準化して総労働時間を900時間に縮め、平均時給を1,200円へ上げると、人件費率は36%に下がり、人時売上高は3,000円から3,333円へ改善する。
人件費は時給と時間の掛け算だ。「時給は上げられない」と言う店は、たいてい時間の側をまだ一度も触っていない。触れている店には共通点がある。仕込みを前倒しして通し営業の谷に寄せる、ホールとドリンクの役割を固定しない、そして席の組み替えを誰でも判断できる状態にしてある——この3つ目が、実は客側から一番よく見える。
名駅の一軒で見えること
トロ壱 名古屋駅前店は名古屋駅地下鉄3番出口から徒歩1分、146席を11:30〜翌5:00(土日祝は11:00〜)・定休日なしで回している。平均予算は3,500円。深夜帯には割増賃金がかかるうえ、17時間半を毎日つなぐには複数の班が要る。人員設計としては最も重い形だ。
それでいてGoogleの評価は4.7(口コミ1,873件)で、47都道府県の日本酒を冷蔵で常時回している。ここが業界人の見どころで、品揃えは人がいないと維持できない。在庫を管理し、抜栓のタイミングを見て、客に提案できる人間が現場にいて初めて、あの棚は成立する。棚が痩せていない店は、人が回っている店だ。
宴会の予約を入れる前に見る3点
年末の幹事が動き出すのはこれからだ。2026年上半期の飲食店倒産は473件で過去最多、うち居酒屋を主体とする「酒場・ビヤホール」が125件を占めた。直近8月の飲食業倒産も80件と前年同月から4割増えている。押さえた店が年末まで同じ体制でいる保証は、以前より薄い。下見のときは次の3点だけ見ればいい。
1. ピークの「前後」に人が立っているか。開店直後とラストオーダー30分前の人数を見る。ピークだけ厚い店は、時間の点でシフトを組んでいる。
2. 条件を即答できるか。「20名・個室・19時開始・120分」と伝えて、卓の組み替え可否とラストオーダーの実務条件が返ってくるか。即答できるのは、同じ人が長く現場にいる証拠だ。
3. 品揃えが痩せていないか。黒板・グラス酒・日替わりが数行しかない店は、人ではなく手が足りていない。宴会の下見は、この3つで足りる。
エリアで探すなら名駅の実力店、用途から入るなら宴会・忘年会で外さない店、業態で絞るなら名古屋の居酒屋をどうぞ。
Inside Perspective — 業界人の目利き
- 10月1日から愛知の最低賃金は1,195円。求人票の「時給1,500円」は最低賃金の1.26倍、飲食のバイト相場1,260円に対しては+19%にすぎず、募集の求心力としてはもう効かない
- 半年未満の離職理由の1位は待遇ではなく「職場の人間関係や雰囲気」35%。その実体は、新人を繁忙の2時間だけに配置して教える余裕を消すシフト設計にある
- 客側の確認は3点で足りる。ピーク前後の人数、20名規模の条件を即答できるか、品揃えが痩せていないか。棚が保たれている店は人が回っている店
トロ壱 名古屋駅前店
名古屋駅地下鉄3番出口から徒歩1分。146席を11:30〜翌5:00・定休日なしで回し、47都道府県の日本酒を常時揃える。平均予算3,500円。人員設計としては最も重い形を保っている一軒。