今日の1軒

今池・大久手山本屋の味噌煮込みが海外の棚へ——業界人が読む輸出の設計

2026年9月15日 (火) 今日の1軒 編集部

2026年9月14日、名古屋めしの老舗・大久手山本屋が家庭用キットの海外展開を発表した。シンガポールのDON DON DONKI、そして香港。すでに香港2店・ソウル・深圳に実店舗を持つ店が、いま「棚」を取りに行く意味を、編集部は価格帯と回転のふたつから読む。吹上3分・今池5分、46席の本店は今日も通しで開いている。

今池・大久手山本屋の味噌煮込みが海外の棚へ——業界人が読む輸出の設計
Photo: 大久手山本屋 / Google Maps

この記事はNAGOYA BITES — 名古屋の厳選1,100店超を業界視点で紹介するグルメガイドの一部です。

発表は2026年9月14日。名古屋の通販企業と組み、麺とスープが各2食分入った家庭用キットをシンガポールのDON DON DONKIと香港で展開する、という内容だった。販売自体は2026年8月に始まっており、直近ではシンガポール・オーチャードセントラル店の試食会に約300名が集まったと報じられている。

ここで業界人の目が止まるのは、この店がすでに海外に実店舗を4つ持っていることだ。香港に2店、ソウル、深圳。つまり「海外進出の第一歩」ではなく、店を出したうえで、あらためて小売の棚に出ている。飲食店の売上は席数×回転で天井が決まるが、棚の売上はその式から外れる。現地の家賃と人材に縛られない販路を、店舗展開と別建てで持ちに行った、と読むのが素直だろう。

大久手山本屋(千種区大久手)の店舗写真
Photo: 大久手山本屋 / Google Maps

商品の設計も、見る人が見れば周到だ。この店の看板は手打ちの麺と八丁味噌ベースの特製「あじ味噌」、そして信楽焼の土鍋である。キットに入っているのは麺とスープだけで、土鍋は付いてこない。家で作れるものと、店でしか成立しないものを、最初から線引きしている。自社商品が自社の客席を食い合う——業界でいうカニバリを、商品設計の段階で避けた形になる。

では店そのものはどう使う店か。千種・今池エリアの大久手、吹上駅から徒歩3分。46席を11:00〜21:00の通し営業で回し、月曜が休みだ。価格帯の読み方はこうなる——昼の平均1,200円、夜2,000円、宴会で4,000円。コース主体ではなくアラカルトの積み上げなので、夜の2,000円は煮込み一杯に味噌おでんやどて煮を一品足した形と見ておけばいい。うどん一杯に1,200円は高く見えるが、土鍋で一人前ずつ炊く料理の原価と手間で読めば妥当な線だ。

大久手山本屋(千種区大久手)の店舗写真
Photo: 大久手山本屋 / Google Maps

オペの裏側でいえば、この業態は回転を上げられない。注文が入ってから土鍋で炊くぶん提供に時間がかかり、客も熱い鍋を前に長く座る。だから中休みを取らず通しで開ける。ピークを潰せない店は、ピークを広げるしかない。混雑を避けたいなら13時台か、夜の早い時間が現実的だ。

シーン適性は正直に分けたい。カウンター席があるので一人飲み・一人客は入りやすく、12名の座敷個室と6名のテーブル個室があるため4,000円帯の小宴会も取れる。一方で接待には向かない。熱い土鍋は会話のテンポを奪うし、時間の読める料理でもない。接待で使う店は別に用意したほうがいい。味噌煮込みうどんの店は名古屋に何軒もあるが、海外の棚と名古屋の土鍋を同時に持っている店は、今のところ多くない。

Inside Perspective — 業界人の目利き

  • 海外に実店舗4店を持ったうえでの物販展開。席数×回転で決まる天井の外に、もうひとつ売上の軸を置く動き
  • キットは麺とスープのみで土鍋は含まない。家で作れるものと店でしか成立しないものを線引きし、自社客席とのカニバリを避けている
  • 昼1,200円/夜2,000円/宴会4,000円。コースではなくアラカルトの積み上げなので、一品追加を前提に予算を読む
01

大久手山本屋

味噌煮込みうどん 千種区大久手(吹上駅 徒歩3分 / 今池駅 徒歩5分) ★4.3

大正14年創業の系譜を継ぐ味噌煮込みうどんの老舗。手打ち麺と八丁味噌ベースの特製あじ味噌を信楽焼の土鍋で炊く。46席・11:00〜21:00の通し営業(L.O.20:00)、月曜休。カウンターでの一人客から12名の座敷個室まで受ける。